年長のクマの巧妙さに完敗したが・・

 

金色の首輪をしたクマ それはまだ私が散弾銃時代の事である 一撃必殺のライフル

銃の許可申請資格は狩猟登録使用で散弾銃暦10年以上である それもそのはず使い

方を間違うととんでもない犯罪って事になってしまうので与える人柄と銃に対する

熟練度を上げてからの審査資格と言う事であろう 散弾銃をクマに対して使用する

場合 通称ロケット弾とかメーカー名でブレネッキ弾とか言って散弾ではなく一発玉

であるが発射される弾のスピードが遅く射撃場で射手の後ろで目をこらしていると

 

弾が見えるくらいであるので口径が大きいと言っても破壊力に欠けるので獲物に対し

ては後に死ぬにしても走られて回収率が低下するし クマに向けての近距離での発射

は人命の危険も増大するし足跡の追跡も困難なのでクマの狩猟はとっても難易度が高

いのである 散弾銃がライフル銃に劣る点はまだまだある 有効射程距離もとっても

短く100mちょっとくらい しかも口径が大きいだけに重いので弾の降下も大きい訳

で獲物の全く居ない所で引き金を落とさねばならず高速で移動している物に対しては

 

まず当たらないのでライフル銃と比べると総合的に非常にむずかしいのが現実である

そんな試行錯誤している時代のある日 里山ではなく少し高い山の全く人の寄らない

中尾根を登ってみる事にした 足跡がある訳でもなかったが以前 登山時にハイキン

グ道の平らな所に爪の跡が延々と続いているのを見ているし遠目で山の形を見ての

判断であった 中尾根と言うのは出尾根の両脇にさらに伸びている尾根で大きな沢ま

で続いてなく途中で終りになってしまう尾根の事でこうゆう場所は人は道迷いした時

 

くらいでないと立ち入らない場所であるので正に動物達の庭であるのだ 大沢を遡り

途中の横沢に入ると間もなく急に立ち上る尾根筋をクマよろしく真っ直ぐに音を抑え

上り始める 見える限り遠くをいつも見ながら一歩一歩登る 人の歩行音は真っすぐ

上に足を運ぶ場合筋肉は疲れるが音はしない もちろん毛の上下着とスパイク長靴

両手をフリーにし立ち木を引き寄せながら登るのだ 意気も荒くならない様にゆっく

りしばらく進むとなにやら視界ぎりぎり当たりが騒がしい 石などもタルを流れて

 

いる騒がしいのは上に向かって左のタルなので背丈が隠れるくらい尾根の右側を登る

と見えて来た 15頭くらいのサルの集団の内 子供が追いかけっこなど 立ち木を

ぐるぐる回ったりして遊んでいたのだ 私がクマに気配を悟られない様に登っている

のにどうだろう 石もまくっての大騒ぎ ちょっと見ていたが日本猿は天然記念物で

狩猟獣には入っていない 大人達は木の上や周りで毛づくろいなどしていて 岩から

目だけ出して見ている私には気づいていないみたいだ 横を静かに通り過ぎると

 

おや サルの集団から100mくらい上にサルを監督でもしているかの様にえんとこ

さしている黒い物体 距離にして200mはある 豆粒の様ではあるが距離からして

そうけっこうな大きさのクマであるのがわかる 気が付くとその場所はサルが遊んで

いる開けたタルが終わってその上は植林の20年物で薄暗くひっそりしている所

その高さを右に辿るとハイキング道でそれを横切るともっと小さな植林の真っ暗な所

動物としては有事の際に退避場所として使うのだが 全く視界がきかず下草も伸び

 

放題どっちへ行ったのか解らず入ったらすぐにお手上げの場所である 命中して血

でもしたたっていれば跡は追えるだろうがそれには ますあと100mは見つからず

距離を詰めねばならない クマに教えて貰った技の使い所であるのだ 尾根を挟んで

姿を見せず岩や木の陰を進むのです 腰は常に曲げ銃を片手に何とか撃てる距離まで

と思い必死である なめくじ戦法で20mも詰めた所でもう一度そっと岩陰から覗き

込むと獣道に座り込んで右を見ては高鼻を使い 左を見るを繰り返しているので何か

 

の異常は悟っているのか匂いが到達しているのか解らないが しかし腰を上げずにい

る 日の光が差し込み首を振っているクマの首の毛がみごとな金色に輝いているのだ

喉から手が出ている私としてはまるで多くを生きているクマがこの金色の首 獲れる

ものなら獲ってみろとでも言っているかの様に思えた あと80m進めば撃てる

あせる心を抑えながらまたなめくじ戦法である 相手は暗い所で明るい所の動く物は

いくら目が悪いクマとて良く見えるだろう こっちはまだ明るいタル脇の尾根 分が

 

悪いしここから先30mばかりは岩も木も無いのでじゃりじゃりの尾根下を巻きまた

岩に取り付き確認を・・じゃりじゃりで小石が音を立てずは難しいがゆっくり足を前

に進めるしか 方法がないのでは仕方ない なめくじ戦法はハンパなく足の筋肉を

浪費させるがそれが秋クマの単独猟と知ればらちもなかろう ここが我慢所とばかり

岩陰にたどり着きこれまたなめくじ的に覗き込むと・・あれ あれれ 影も形もない

ないない 獣道の右も左も先を見てみるが姿がない ライフル銃なら200mはちょう

 

ど弾の回転が安定しスピードに乗った距離 全く悔やまれ心に残る猟となってしまっ

たがやるかやられるかのクマ猟 私としては全力投球だったので あの金色のクマが

未熟な私の上をいったなと完敗にすっきりもしたが 良く考えるとサルの集団が騒ぐ

すぐ上で何故監督してたのだろう もしかしたら安全に昼間の時間を風通しの良い

涼しい所で過ごすのに見張り役としてサルを利用していたのではと ますますクマの

利口さに感服した勉強の猟でありました。