クマ猟師は何故初雪を待っていたのか・・

 

猟師は雪の降るのを心待ちにしていた 今年は妙に遅くクリスマスをとうに過ぎ正月

も近いのにどうした事か 大方の人は雪など降らないのを望んでいるだろうがクマ

猟師は今か今かと待ち望んでいた まぁ毎年の事ではあるが心待ちにしているだけに

そう感じてしまうのだが隣街の先輩クマ猟師は秋熊を追うやつはバカだと常々言う

 

冬眠前にエサを求めて移動するクマの足跡を追ってみても追いつくはずはない 追っ

ても無駄だと言う経験談だ 足でかなわないなら頭で勝つしかなかろう クマに限ら

ず相手となる者の弱点を探し出しそこから切り崩し攻め込むこれは戦国時代からの

兵法でもあろう つまりクマの場合初雪が降る頃までには皮下脂肪を蓄え雪の上を

歩って足跡を辿られる事少なく穴に入りメスは冬眠中に子供を生み育て春の芽吹きの

頃には這い出てやわらかいエサも食べられ子供にもたっぷり授乳出来るサイクルが

 

出来上がっているので初雪前に行動を調べ縄張り内の冬眠穴に戻って来た時には丁度

狩猟期でありチャンスとなるのだ 狩猟獣と毛皮獣の狩猟時期には15日のタイムラグ

があるのでクマが撃てる様になるまでは散弾銃でも持ち出し山ではおいしい物のトッ

プクラスであるヤマドリなど獲って汁にして食べたいとは思うものの自慢ではないが

食べたヤマドリは朝早く猟場に向かう途中道路に血があるので止まって跡をつけてみ

ると道路のはたで息絶えているやつを食べるくらいで今までいや とうとう1羽も撃

ち獲った事がなかったのである 俗に四ッ足を狙う者は鳥には当たらない 鳥を狙う

者は四足には弾は当たらない などと言われ獲物のスピードと狙い所が違うのでそん

な事が口伝えとなってる様ではあるが 本当に当たらないのだ じゃ毛皮獣の猟期ま

 

でシシを撃つのかと言うとそんなものはいらない そんなものと言うと申し訳ないが

シシは体重が重く足はヒズメなので足跡をつけても滅多に失くすはずもなく 足跡を

つけて行くとそこで寝ているのだ それを撃ってもおもしろくないのは当然でまして

山から引きずって来るのは苦痛でもある その後の解体も苦痛である 精肉もしかり

それくらい静かに音を立てずに歩かねばクマを目には出来ないのである それでも

人と銃の火薬の匂いは風で運ばれるので先に出られてしまう事たびたびなのだ 岩場

で岩伝いに足を運ぶとそれこそ無音なのだがやっぱり 逃げてしまうのは匂いを嗅ぎ

とるに相違ない 匂いとて試しにカナダのカベラーズ社から取り寄せた匂い消し剤も

たいして効果なかったように思える まぁ状況はその時によりクマの固体にもより

 

まちまちなのでいちがいに言えまいが。 さて山へは来ているものの目的もなく足跡

でも見てみようかと思ったのである 初雪が降ったらあの穴へ行ってみようと心には

決めているのだそれは以前穴を散策しているときに出尾根の岩が露出している所なの

だがあたりにはあちこちにフンがしてあり さほど大きいクマではなく新たに縄張り

にしようとしてる風にみえた 秋には里の方へ出向きエサを採るにしても初雪が降る

頃にはきっと戻ってきてこの岩場周辺で寝る場所を作るかもしれないと思っていた

その攻め方も考案してある 横から回り込むとこぶがいくつもありその辺に行くまで

に何度も見えたり影になったりでその間に出られても全く解らず岩場だけに居たのか

居ないのかも解らずじまいでは 意味がないので 岩段の真下からでも登れるルート

 

を見つけてありクマのお株を奪う我ながら奇抜な作戦なのだ よしんば先に見つかっ

て攻撃をくらおうとも岩段の下なのでクマとて降りて来ようもなく引っかく動作くら

いしか出来ないしそのたびによけられると自信があった 撃ち獲れなくても勉強に

なるし次もある 打ち獲られなければいいのである この日はろくな足もなく陽だま

りで昼寝をして帰った 銃を持ち猟に来て何もないのが4割 小動物を含め四足を

見て楽しめるのが4割8分 クマをおんぶして下って来るのが2分と言った所で

しょうか年に1頭しかいらないのではそんなもんですね 遅かれ早かれクマを1頭

獲ったら次の日からは相方に付き合ってシカを追って相方に撃たせたり相方の犬を

使って何でも追わせたりの訓練やらタヌキやキツネやテンなど毛皮をストックして

 

置き 後にチョッキ製作の計画もあるのです そうこうしていると 待ちに待った

初雪が正月過ぎ月半ばに降りました 前日から弾の製作銃の手入れ服装準備など

忙しくこなし次ぐ朝はやんでおり天候は曇り 風もないが木雪が降る為上下ウール

の服装を選んだ靴は岩登りなのでピン付き足袋にした ゆっくり汗をかかないように

山道を登る 目的地近くになり銃に弾を込め安全装置をかけて背中に背負った高さ的

には電信より少し低いくらい 意気を殺し岩に取り付く途中の木も邪魔をし雪を落と

すがなるべく崖淵から目を離さない様にする 顔を出したからとて撃てはしないが発

見しないと何もならないからだ 距離をじわりじわり詰め岩段から恐る恐る顔を出す

が居ないし形跡もないので一気に岩段に這い登り腰をかがめながらすぐさま銃を構え

 

どこから来ても撃てる体制を作る 雪が少し積もっているので歩けば足跡も付くのだ

が雪が降ってる間は歩いてないか全く居ないか だが気は許せない 後ろで誰かが見

ていたらなんにも無い誰も居ない所で妙に身構えて緊張して異様に見える事だろうて

しかし 命がかかると言う事はおかまいなしに身構え 注意し 自分を高めるのだ

おし散策を始めよう と思うが先何か動いたような 気配だけなのか 自分の気持ち

が動いただけなのか・・何も見えずあたり真っ白 緊張の瞬間である いや確かに何

か 半歩また半歩 穴を攻める時にはドットサイトと言い倍率はゼロ真ん中に赤い点

が発光している照準器を使っている 肩に銃がしっかり付いていれば赤い点に必ず

着弾するのだ 後がどうなろうと考えず引き金が落ちる時には冷静に着弾させたい所

 

を探すだけそして引き金を絞るだけ 2秒くらいの勝負です そして急所に入らなか

った時には残りの0.2秒くらいでクマの胸を突き刺す様に次射をかける心構えが出来

ている 叩かれる前に2発目を撃ち込まねばならないと常々言い聞かせているが今だ

それを使った事がないのは幸いである 2歩くらい進んだ時見えた! 白い背景に黒

い穴だが 縦に穴がありそれは岩場に生えた木の下を自分で掘ったらしかった 奥行

きは深くないのだが やはり出たり入ったり動きが激しい 頭を白くして引き金が落

ちた どしーーん!

胸を狙ったつもりだが鼻を吹き飛ばしており すかざず楽にしてやる為 2発目を放

った 穴の中で動きを止めたが例によって30分は見守っていた やっと大きな息が

 

出来た何度も何度も・・。

この辺は雪深い地方ではないのでクマは雪が降ったとて半寝 半起きで危険度は最高

ではないか?ぐっすり寝ている物は半分以下 目の前近距離でいつもクマと目が合っ

てしまう 目が合ったら瞬きする間もなく発射しなければと思っている 考える時間

を与えないのも安全上必要条件なのか そしてひっそり教えようこの度胸は

実はこの銃がもたらす所が大きいのかも知れない。