もう20年も家に居るクマ

 

そのクマは体長1.1mほど爪は鋭くとがっており牙も全く磨り減ってはいない毛並み

はと言うと艶があり長さもじゃまじゃなく光を反射しない真っ黒で私のお気に入り

であり いつまで見てても飽きない 家に居るのだから言わなくてもおわかりの標本

剥製である 形は右手を見栄えのする木の切り株に乗せ半立ちと言うよりもう少し

低い 左手はネコがよくやる様な少し丸め爪先は後ろ方向にある顔は正面を向いて

おり口を軽く開け上下の牙と舌も奥の方に見えている 目はクマらしく小さく儀眼

なのでぱっちり開けていて愛らしく遠くを見ているのだが 毎日見ているのに飽きな

いのだ 剥製と言うのは製作者の技量や感性によって天と地の差が生まれてしまうよ

うである 人形は顔が命とか言うTVCMがあるが剥製も顔の表情で大きく変わる 普通

 

剥製の頭骨はプラスチックの原型などに粘土を盛り付けてつくると手間も少なく時間

も早く楽なのだがうちの剥製を作るときに本物の頭骨とそれに付いている牙を使いそ

れが見えるように口を少し開いてくれと頼んだのだ 業者はその注文口上を聞きクマ

よろしく唸りながら頭を抱えて露骨に嫌がっていたがその製作段階の構想が瞬時に頭

に浮かび構想を思い悩み唸っていたみたいだ 口をどのくらい開けようやら舌はどう

作ろうなどと口の中でもごもご言いながらしぶしぶ引き受けたのでした クマの固体

が若かったのもあり製作者の技術もありでこんなに長く愛される剥製になったのでし

た 実はこのクマ前号の物語の主人公で首に命中したクマであった最初に仕留めたか

 

からと言う訳ではなく剥製には大きさ的に丁度良い感じではないかと思ったからで

ある これ以上だと何かと邪魔にされ蹴つまずいたり持ち上げる時なども 掃除もと

いったぐあいだろうそれに敷物にするにはほんのちょっと小さいかも 作製費もそれ

なりで当時15万円+切り株1万円頭骨もキズなく使用可能 この時は首から上は

解体せず?製屋にまかせてしまったので気にも止めず判らなかったが クマの頭は思

ったより上から見ると左右が狭く縦長で当然前から見ると幅狭で攻撃ヘリのアパッチ

の様に前から見ては実に的が狭いと言った感じで攻撃しづらいのです 横から歩く

又は走るのに狙いを付けても頭に付いている目はいろんな所を見ているので絶えず動

 

いている 横長ではあるが鼻が長く目もありでやはり脳は体に比べるととても小さい

ので クマは頭は狙うなと言われているのも納得出来るのである 一方クマは矢に弱

クマの頭骨

いとも言われダメージに対する抵抗力は低く止まりやすいと言っているのであろう

 

体の横を見せた体制からが回収確率は一番良く脊髄と心臓はもちろんその近辺の肺に

着弾すればすぐに止まろう その他内臓なら30分待ってから血をたよりに追えば

近くで事切れていることでしょう 手足だとどこまで行くかわからず鮮血なほど

止まりにくいかも知れず また山を登る方向へ移動するなら追っても無駄かも知れま

せん まっすぐ前からとまっすぐ後ろからでは 的が細いのもあり回収率は10パーセ

 

 

ントくらいに下がってしまう 以前真後ろから撃ったシシの腸を破ってはいるがいつ

までも止まらず難儀した事があった 以前の相方とふたりで手分けして見切りをして

いた時相方に新しい朝の足跡があり山の中腹を横方向へ向いているのを発見 私はそ

のずっと先の沢を見ていたが足跡がないのでまだ二人の中へ居る可能性があった 

無線で計画を立て以前の通り道に私が待ち伏せする作戦にした待ち手の射手をタツと

言う追い手を勢子と言う タツ場に木があれば木になれ岩があれば岩になれと言われ

るくらい身動きひとつしてはならないの意味である タバコを吸ったりようを足した

りはもっての他である ここのタツ場は下草密集の小尾根であり遠くから来るのが見

 

えるような所は通らないのでしかたないこの辺でと手を打って岩が突き出てる横で銃

を前に身構えていた私に気付けばクマは私側を避け反対のしばらくは見通しのきく

タルを走るだろう そのタルが見える所まで5mくらい走り狙いをつければと思って

いた 長年の勘と知っていた地形とでここを通るとふんでいたのだ じッと待つ事

どれくらいだろう静粛中にぱちッ 音がしたかすかな しかもみごとな落ちてる枝を

踏んで折れる音だ 一度だけ二度はしない 勢子が入るとそこにいる動物は何であれ

退避行動をとるが体重が重くないと落ちてる枝は折れないのだ うかうかしてると聞

き逃してしまうような1回限りの枝踏み音 体は毛で覆われているので下草の枝など

 

を擦っても音など全く出でないのである そして4〜5秒後真っ黒いクマが体を揺ら

し はぁはぁと息を弾ませながらこっちへ真っ直ぐ向いて来た これこれこの瞬間が

たまらなくいいのだ 一瞬の判断の間違えでどのようにでもなってしまうこの状況

怖くもありたまらなく好きなのだ もしかしたらクマよりもじっとしていた私の心臓

の方が早く打ってるかもしれない クマが左へ飛んだらあとは時間との勝負 私もそ

の5mの距離を超えしばらくの間狙いが付けられると思ったタルに目をやると 居な

い どこを見てもどこにも居ないのだ もしかしたら走っていないで近距離で逆に待

ち伏せされているのか?など考えるも そんな隠れていられる場所もない おかしい

 

何かが変だと思いながら早いテンポで目が動くものの 見失ってしまったのだ 目の

前には少し遠くまで見通せる場所なのにである 今逃げたのだから足跡でも判れば

どこをどう辿って行ったのか勉強にもなろうが針葉樹の落葉が厚くて足跡など見れる

ものではなかった またもやクマは技をつかったか・・・私の完敗であった 不思議

としか言い様がない。がっかりして帰る途中 以前にも全く同じ事があったのを思い

起こしていた それは今回以上に不思議な技であったので次の物語として紹介しよう